摂食障害のサワコさん、前半。
今度は仮のサワコさんとしてお話しましょうか。
サワコさんは普通の高校生一年生。
仲のいい友達がクラスメートにいて、毎日楽しく学校に通っていました。
ある日、友達の1人が最近ダイエットをしていると楽しそうに話すのを聞いて、なんとなく私もダイエットしてみようかなと思って、ダイエットを始めました。
もともと標準体重で太っていたわけでもなかったけれど、晩御飯をゆで卵だけにするだけで、1週間で2kg痩せたこともあって、ダイエットが面白くなってきました。
食事は全て自分で作り、陸上部の練習も毎日行っていました。数か月で、『かなり細い』体型になりました。
家族は心配しましたが、細いと言われることが嬉しかった。
ダイエットもせず、デブのまま生きている人が不思議。ある時から、食べなくても大丈夫だと思えるようになりました。
水だけは飲みました。水はどれだけ飲んでも太らないって本で読んだから。
食べない日がどれくらいだろう、かなり長い間続きました。
ある日、ひどい空腹感を感じて、目に入ったものは全て食べました。
ただ口に入れ、噛んで、飲み込んだ。ひとしきり食べた後、我に返り、食べてしまったことへの罪悪感が襲ってきて、喉の奥に手を突っ込んで吐きました。吐いたら楽になりました。
またしばらく水だけの日が続いて、そしてまた食べまくって吐きました。
そんなことを繰り返して、高校三年生のある日、いきなり倒れました。
休み時間に廊下を歩いていただけなのに、倒れた。
幸い頭を強く打ったわけではなかったけれど、念のためMRIやレントゲンを撮ることになりました。検査ため一晩入院したけれど、転倒による障害はないだろうと言われ退院の許可が出ました。
退院の予定時間の少し前、主治医の脳外科の先生に言われました。
「この病院は精神科があるから、退院前に寄って行きなさい。予約は入れてあるから。」
行きたくない。
精神科なんて…、ちょっと倒れただけなのに、MRIでも異常なかったのに、この先生おかしいんじゃないかと思いました。
「はい、分かりました。」と口では言ったものの、行く気なんかなかった。
お母さんより先に家に帰って、忘れてたって言えばいいや。
「サワコ、じゃあお母さんも一緒に行くね。サワコ、最近眠れないって言ってたし。丁度良かったね。この前テレビで、眠れないと太りやすくなったり、イライラして集中力が低下するって言ってたし。」
眠れないと太る?そうなの?
お母さんが言うように、最近はあまり眠れていない。
太るのはイヤだ。せっかく痩せたのに。
仕方ないか、行くって言っちゃたし。
始めに精神科の先生とちょっと話したら、外に出されました。
お母さんとだけ話している。
ヒマだから携帯でSNSを見ていたら、診察室から呼ばれました。
中に入ると、「今日から入院しなさい。」と言われました。
は?高校生で精神科に入院とか頭おかしいんじゃない?お母さん何とか言って!
「今はこの病棟のベッドしか空いてないって。建物もキレイだし、個室も空いているって。サワコが思っているより、サワコの体は調子が悪いらしいの。」
「どこが?MRIとかは大丈夫だって言ってたけど。」
「栄養状態が悪いみたい。もうすぐ夏休みだから、みんなより一足先に夏休みに入ろう。」
イヤイヤ。家に帰りたい。入院なんてイヤ。
サワコの意に反して、今日から入院することになりました。
洋服や身の回りの物はお母さんが後から持ってきてくれることになりました。
友達にどう言おう。お母さんも帰った後の病室で1人、泣きそうになっていた。
病室に看護師さんが様子を見に来てくれた。
「どうしました?」
看護師さんの笑顔が思いのほか優しかったからか、涙が出てきた。
「私、家に帰りたい。病院なんてイヤなんです。友達にもなんて言ったらいいか…。」
看護師さんはそっと頭を撫でてくれた。
「体が良くなったら、すぐに帰れます。それまでのちょっとの間、一緒に頑張りましょう。
お友達には、診療科は伝えないで、入院していることだけ伝えたらどうかしら?メールや電話で連絡が取れますから。」
サワコは頷く。
次の日、決まりを書いた紙が担当の看護師さんから渡される。
・食事はホールで食べる。
・食事の後の1時間はホールにいる。
・病院内で行われる作業療法は全て参加する。
・間食はしない。
・お小遣いなし。
・1日2時間以上の外出禁止