初めて会う、アスペルガー症候群の人。
監査が終わったころ、岡林先輩が戻ってきた。
「川村さん、今から患者さんのところに行くので、川村さんも来れますか?」
「はい、大丈夫です。」
「今から行くのは、アスペルガー症候群の患者さんです。川村さんはアスペルガー症候群の方にお会いしたことはありますか?」
「ないです。」
普通ないと思うけど・・・。
「アスペルガー症候群の人は、知的レベルは高いですが人とのコミュニケーション能力が低いです。今から伺う緒方さんも対人関係のストレスによる二次的なうつ病の患者さんです。薬はこれだけです。パキシル、ラミクタール、レンドルミン、ロゼレムです。では行きましょう。」
抗うつ薬のパキシル、感情調節薬でうつの再発予防の効果もあるラミクタール、眠剤のレンドルミンとロゼレム。かなりシンプルな処方。1日1回の処方だし、これは飲みやすい。
緒方さんは個室に入院されているため、面会室ではなく、直接個室に伺う。
部屋のドアをノックする。
「緒方さん、今日は新任の薬剤師の川村も同席してもよろしいでしょうか?」
「はい。」
「川村です。よろしくお願いします。」
「緒方さん、入院した時と薬は変わっていません。ですが、簡単におさらいしてもよろしいですか?」
「はい。」
どうしたんだろう。この人、ずっとにやにや笑っている。なんかすごい違和感。気持ち悪い。
岡林さんはゆっくり話す。
「どのお薬がどういう効果の出る薬かご存じですか?」
「はい。パキシルは抗うつ薬、ラミクタールは気持ちを安定させる薬で、ロゼレムとレンドルミンは眠剤です。」
すごい。大正解。
「そうですね。緒方さんは今まで勝手に薬を飲むのを止めたり、量を調節したたり、沢山飲んだりしたことはありますか?」
「ないです。」
「そうですか。特にパキシルというお薬は急に止めると調子を崩す可能性が高いので、主治医の指示に従って内服して下さい。」
「大丈夫です。もうずっと飲んでますから。」
「では、副作用の確認をします。便秘はありますか?」
「ないです。」
岡林さんはしばらく副作用の確認をする。岡林さんが訊いた、便秘、下痢、口渇、ふらつき、たちくらみ、イライラ感、食欲不振、睡眠の乱れについては特に思い当たることはないらしい。
岡林さんはさらに訊く。
「薬は効いている感じありますか?」
「たぶん。効いているんじゃないかと思います。ずっと飲んでますから、これからも飲みます。」
「分かりました。緒方さん、特に気になることはないですか?」
「大丈夫です。」
「ありがとうございました。」
退室して薬局に戻る。最後まであのにやにやとした顔はそのままだった。