統合失調症の躁状態は、脳神経細胞に悪影響?

「お先にお昼頂きました」と、アリサちゃんが昼休みから戻ってきた。分かり易くふくれっ面をしている。

 

「川村さん、聞いて下さい。栄養科の友達とランチしてたんですけんど、研修医の中村先生は、36歳で変わり者らしいです。全然かっこ良くないみたいです。精神科志望らしいですけんど」

 

「アリサちゃん、36歳で研修医ってどうして?」

 

「社会人して、医学部入ったから、今36歳らしいです。すっごい変わり者らしいですよ」と、口を尖らせて言っている。

 

「アリサちゃん…。変わり者って、見方は人それぞれだし…」

 

「分かってますけんど。年も離れてますし…。興味がなくなりました」

 

アリサちゃん、清々しいくらいに正直。

 

 

 

「川村さん、そういえば、一人、パーソナル障害の患者さんに服薬指導をしてもらってもいいですか?」

 

え?パーソナリティ障害?

 

「岡林さん、パーソナリティ障害の患者さんって、私の手に負えますか?」

 

「大丈夫です。お願いします。」と、岡林先輩がほほ笑む。

 

本当に大丈夫なんだろうか。

 

 

パーソナリティ障害の山内さん。女性。

 

えーと、家族自体もなかなか…。

 

父親はアルコール中毒で、母親はヒステリック、弟は自殺していて、姉は3回離婚していてホステスをしている。ホステスって、美人なのかな?

 

すごいな。私は一回も結婚したことないのに、3回も結婚して、さらに離婚まで。

山中さん自身は結婚歴はなし、水商売をしている。身体中に入れ墨あり。リストカットでなんどもERに来ている。

 

薬は、抗うつ薬と頭痛薬とイライラ時の頓服薬。

では、病棟に上がろう。

 

一歩薬局から出ると、なんだか騒がしい。

私がドアを開けたので岡林先輩も外の騒がしさが聞こえたらしく、薬局から出てきた。

 

急に岡林先輩の顔色が変わって、いきなり走り出した。

 

よく分からないけど、岡林先輩を追いかける。

 

病院を出てすぐの道路で身体の大きい男の人が叫んで暴れている。

 

何かあったの?

 

男性の看護師長や男性の看護師が沢山集まっている。

 

立山君…、また…。」と、岡林先輩が悲しそうに唇を噛んでいる。

 

男性の看護師達が集まって、暴れていた患者さんを病院に連れて入った。

 

 

岡林先輩を振り返る。

 

え?泣いてる?

 

「岡林さん、お知り合いですか?」

 

「ええ、患者さんです」

 

「岡林さん、涙が…」

 

「あ…、ごめんなさい。ちょっとトイレに行って来ます。すみません」

 

 

よく分からないけど、病棟もきっとバタバタしているだろうから、山内さんの服薬指導は明日にした方がいいのかな。

 

どうしよう。とりあえず、薬局に戻ろう。

 

 

数分して岡林先輩がいつもの表情で戻ってきた。

 

「岡林さん、あの…。山中さんの服薬指導、今日は行かない方がいいですか?よく分からなくて…」

 

「そうですね。急ぎませんし、明日にしましょうか」

 

いつもの岡林先輩に戻っていてくれてほっとした。私、あんまり臨機応変に動けるタイプではないので…。

 

「川村さん、先ほどはすみませんでした。あの患者さんは、立山さんという30歳の統合失調症の患者さんです。

いつもはすごく優しい人なんですが、薬が嫌いで…。

 

退院して薬を飲まなくなると躁状態になってと暴れてしまうんです。体格も大きいですし、ちょっと暴れても大事になってしまいます。毎回、躁状態で暴れて運ばれてきます。

 

前もお話ししましたけど、激しい躁状態が続くと脳が器質的に変化してしまう可能性が高くなるので好ましいことではないんです。

 

私の印象だけですが、立山さんの知的レベルや忍耐力がだんだんと落ちている気がします。

落ち着いている時は、本当に優しい穏やかな方なので、とても残念で悲しくて…」

 

そう言って、いつもの様に病棟に上がって行った。

 

 

岡林先輩が病棟に上がって数分すると、事務長が怖い顔で入ってきた。何?

 

「岡林さん、大丈夫?」

 

「ええ? 岡林さんは、たぶん…、今、病棟…」

 

単語しか出ない。怖い。

 

「そう、まあ、気にしない様に。」と、言って出ていった。

 

あなたが来た事を気にしない様にしたらいいの? 何?

 

いつの間にか、市川主任が側にいた。

「なんだか怖いわよね。けっこう優しいのに、あの顔でどれだけ損してるか。川村さん、大丈夫?」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

そうなんだ、岡林先輩を心配してわざわざ来たんだ。優しい人なんだ。

 

「川村さん、事務長が来た事は私から伝えておくから。」と、ほほ笑んでくれる。

 

しばらくして、いつもの様に市川主任が声をかけてくれる。

 

「そろそろ終わってね。」

 

今日の騒ぎは私には全く関係ないのに、なんだか疲れた。

 

いつもと変わらない市川主任に和ませられる。変わらないって素晴らしい。