佐竹さんと摂食障害、ちょっとだけ、カプセルへのクレーム。

そう、カプセルもね。

時代錯誤じゃない?カプセルって。ナノの世界をどうのこうの言ってる時代に、楕円形の容器に詰めるだけって・・・。

高齢の患者さんは、ご飯でせき込み、お茶でせき込み、看護師さんに隠れて食べたアンパンで窒息しかけ。そんな状況で、1センチ越えた大きさのカプセルって、ちょっと無理だと思うんですけど。無力な私にはどうもできないけど、製薬会社さんに頑張ってほしいな。

 

午前中は、飛んだ。監査してると時間すぐ経っちゃう。

市川主任が、「お昼入ってね。」と声を掛けてくれる。市川主任はお昼休憩と就業時間については、時計に備え付けられてるハト並みに正確で、ワークライフバランス完璧。

 

「川村さん、お昼にしましょう。私は食堂に行きますけど、ご一緒します?」

「はい、お願いします。」

岡林先輩に誘われて、一緒に食堂でランチ。8階にあるできたばかりの食堂はとてもキレイで眺めもいい。田舎だから高い建物がほとんどないから、すっごい見晴らしがいい。私はやっぱり山が好きだな。ビーチよりも山並みを眺めていると落ち着く。

ここの食堂、ちょっとお値段がね、高いの…。病院薬剤師の安月給には辛いところがあります。しかも、量も少ない。

お昼はガッツリ食べたいのが、食べたら食べた分だけ太っちゃう女子の希望なんですけど。

 

「岡林さん、お疲れ。」と、岡林先輩に声を掛けてきたのは、薬剤部でもめちゃめちゃ明るい盛り上げ役の佐竹さん。

「佐竹さん、お疲れ様。」と、岡林先輩。

そうだ、この2人、共通点全くなさそうなのに仲良いんだった。へんなコンビ。

「川村さんこんにちは。ちゃんと話すの初めてだよね。何食べる?」と、佐竹さん。

良く分からないけど、佐竹さんって側にいるだけで楽しい。いるだけで周りを明るくする人ってこういう人なんだろうな。いいなあ。

「私は、カレーにします。」

「カレー?カレーって良いよね。スパイスが肌をキレイにしてくれるらしいし、風邪もひかなくなるらしいよ。ホントかな、アハハ。私はサバ味噌にしようかな。」

「私はお蕎麦にします。」と、岡林先輩。うわ~、似合うわ蕎麦。

 

窓側の明るい席に3人で座る。

「川村さんは、前はどこ?」と、佐竹さんが聞いてくれる。

「関西で調剤薬局にいました。」

「へ~、関西出身?大学が関西?」

「私は生まれも育ちも兵庫県なんです。宝塚。大学も甲子園の辺りです。えっと、甲子園も兵庫県です。両親が高知出身で、父が定年退職して高知に戻ってきたので私も付いてきました。私は両親の隣の、祖母が住んでいた家に住んでいます。」

「そうなんだ。関西出身ね。田舎でしょ、ここ。関西から来た人には何にもないよね。車の運転は?」

隣で岡林先輩はゆっくりお蕎麦を食べている。すするというより、食べている。

「親の車で練習してます。自分の車も買おうと思っています。」

「そうなんだ、運転できたら全然違うよね。車種とか決めてる?」

しばらく車の話やお洒落な喫茶店の話をして、食堂を後にする。休憩時間は1時間だけど歯を磨いたりするから、実質は45分くらいかな。

分かれ道で、佐竹さんが笑顔で言う。

「じゃあ、午後も頑張ろうね。川村さん、岡林さんは人見知りだから、色々気になることがあってもあんまり気にしないでね。」

『色々きになること』?佐竹さんは強烈な存在感を残しつつ、スタッフルームに戻って行った。私と岡林先輩は、精神科の薬剤部に戻った。

「私がアメ車だとすると、佐竹さんはトヨタですね。」と、岡林先輩が呟く。

キョトンとしていると、「エンジンが違う感じがして。でも、アメ車と日本車のエンジンの違いなんて分からないんですけどね。感じで言ってみました。」

なんか可愛い。佐竹さんがいたからかな、岡林先輩がいつもと違う。

あ、だから人見知り。私が知ってる岡林先輩と佐竹さんが知ってる岡林先輩は違うんだろうな。

 

「川村さん、説明を再開しますね。」と、いつもの岡林先輩。

「この前の薬の説明会に来て下さった、青木さんと藤原さんです。このお二人は摂食障害です。

摂食障害の患者さんの一般的な傾向をお話しますが…。青木さんと藤原さん、どちらの方が痩せていますか?」

「青木さんが異常なくらい痩せていると思います。藤原さんも細いですけど、異常な感じではないような気がします。」

「そうですね。青木さんは20代でありながら圧迫骨折のリスクもすごく高いと思います。理想体重の約半分です。」

「半分?私が165cm53kgなので、理想体重は身長(m)×身長(m)×22として約60kg。私が30kgしかないということですか?」

「それくらいですね。痩せすぎてしまうと、突然死の可能性が高くなります。摂食障害は命に関わりますが、治療に根気が必要な疾患でもあります。

摂食障害の患者さんは、まず痩せます。基本的には痩せようとして痩せることが多いです。痩せ方は様々。一般的なのは、拒食、過食嘔吐、過剰な運動、下剤です。」

「岡林さん、基本的に痩せようとして痩せるということは、痩せようとしなくても痩せちゃう人もいるってことですか?」

「そうですね。特に原因もなく体重が急激に落ちることもあるみたいです。しかし、うつ病でも食欲低下により体重減少が見られますので体重が低下したことだけを見て摂食障害とは言い切れません。単純なうつ病であれば治療により食欲も戻りますし、体重増加に恐怖感を持つことはありません。

摂食障害のベースには、うつ病があるとも言われたりしますが、それは個人差もあるでしょうし、今日はうつ病摂食障害は別の病気だと言う事にします。

 

摂食障害の患者さんは、体重増加についてかなりの恐怖感と罪悪感を持っています。