最近はやり?の新型うつ病・・・、健常者と病人の境界線は何処に?

永山さんのカルテを見る。

 

永山さんは男性で39才。新型うつ病

新型うつ病のことは、岡林先輩に借りた本にも載っていた気がする。でも内容をよく覚えてない。

 

永山さんの職歴は、特に書かれていない。

母親と姉と暮らしている。

 

永山さんのことが全く想像できない。

 

「岡林さん、ちょっと聞いてもいいですか?」

「もちろんです。」

「この永山さんは新型のうつ病らしいんですけど、新型のうつ病が良く分からなくて。岡林さんにお借りした本に載っていたのは記憶にあるのですけど、内容をあんまり覚えていなくて…。」

 

せっかく貸してもらった上に、ちゃんと読んだのに内容を覚えてないなんて、なんでこんなに記憶力が悪いんだろう。私がうつ病

昔から頭良くないから、うつ病だとしたら生まれつきということになっちゃう。じゃあ、先天性のうつ病ということ・・・えええ?

 

「川村さん、本を丸暗記するなんてできませんよ。書いてあったことを覚えていただけで十分でしょう。読んで下さって、嬉しいです。」と、私がしょんぼりしているのが不思議と言わんばかりに、にっこりとほほ笑む。

 

「川村さん、新型うつ病というのは、非定型うつ病とも言います。今までに認知されていたうつ病とは一線を画するものです。

一般的にうつ病と言われているものを精神科では古典的なうつ病と呼びます。古典的うつ病新型うつ病で大きく違うのは、古典的うつ病の患者さんは、『うつ病ですね』と言われた時、『うつ病ではありません』と、うつ病であることを否定することが多いです。

しかし、新型うつ病の患者さんは、自分から『うつ病だと思います』と診察に来たり、うつ病と言われるとかなり簡単に受け入れます。

 

古典的うつ病の人は、エネルギーが全くない状態と考えて下さい。エネルギーがなくなるため、動けない、食べられない、眠れないなどの症状が出ます。

新型うつ病の人は、したくない事はできない傾向にありますが、したいことはできるようです。食べたり寝たりも割とできます。もちろん個人差はありますが。

 

新型うつ病というのは最近多くなってきたと言われますが、過去にどれくらいいたかは不明です。昔から一定数存在したのか、最近増えてきたのか分かりません。

新型うつ病の人は、かなり疲れやすい印象があります。ある意味わがままに映るかもしれませんがしんどさは抱えています。今の医療で彼らのしんどさを完全に取り除けることができるかは分かりません。

私たち薬剤師ができることとすれば、頓服薬の使うタイミングを模索したり、身体の不調はないか、副作用が出ていないかを確認するくらいでしょうか。

全ての患者さんがそうだと思いますが、現状を的確に言葉にできれば治療するにしてもかなり楽になると思います。それには質問する方のスキルも大切です。私はまだまだ勉強中で川村さんに質問の仕方を教えることはできないので、一緒に試行錯誤して、いろいろな勉強会にも行きましょう。

永山さんに関して、他に質問はありますか?」

「大丈夫です。行って来ます」

 

岡林先輩はそう言うけど、新型うつ病って病気なの?怠け者が体よくサボっているだけなんじゃないの?

どうしよう、永山さんの服薬指導、ものすごくやる気なくなっちゃった。

 

「永山さん、失礼します」

永山さんは大部屋ではなく、個室の入院なので、看護師さんから部屋で服薬指導したらいいよと言われたので訪室する。

 

永山さんは、優しい印象の男性。少し頼りなく、気が弱そうな顔をしている。

「永山さん、お薬の説明をしたいのですけど、今、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。薬剤師さんですか?」

「はい、薬剤師の川村です。よろしくお願いします。」

 

薬の名前や写真が読みやすいように、机の上にお薬説明書を並べる。

「今、永山さんが飲んでいる薬の説明書です。抗うつ薬と感情調節薬と眠剤、そして不安時の薬が出ています。薬は効いている感じがありますか?」

「薬は…、効いてると思います。」

「どういう時に薬が効いていると思いますか?」

「どういう時?先生が出してくれてるものだし…。」

ん?

「えーと…。具体的には、例えば、夜よく眠れる様になったとか、気持ちが落ち着くようになったとか、感じることはないですか?」

「あ・・・そういうことか・・・。じゃあ、よく眠れるようになりました。前は夜中まで起きていることもありましたけど、眠剤を飲んだらすぐに寝れますから、よく眠れるようになったと思います。」

永山さん、なんかボーとしてる。

 

「薬を飲む前は、不安な気持ちになったり落ち込んだりすることがありましたか?」

「そうですね。落ち込む事はありました。周りと上手くいかなくて・・・。 今もあんまり上手くいかないですけど。ここは優しい人が多いので、すごく楽です。入院って、どれくらいできますか?できるだけここにいたいんですけど。」

ん?入院生活を満喫してるの?

「えっと…。入院できる期間は、私には分からないので、主治医と相談して下さい。

永山さんは、抗うつ薬を勝手に飲むのを止めてはいけないことを知っていますか?」

「初めて聞きました。」

抗うつ薬は効き目が出るのに時間がかかる上に、急に飲むのを止めてしまうと、落ち込みがひどくなったりすることがあります。危険な薬ではないのですが、止め方にコツがいるので勝手に量を調節したりしないで下さいね。」

「はい、分かりました。」

 

簡単に副作用等のチェックをして服薬指導を終えた。なんか、とらえどころがないし・・・、意表を突かれた感じ。