初めて精神科で単独の服薬指導。無駄に恐れおののき過ぎて、挙動不審感がぬぐえない。
病棟に着いた。そうだ、まず看護師さんに言わないと。
「お疲れ様です。若松さんの服薬指導に来たんですけど…。」
「若松さん、呼んできましょうか?」
「いえいえ、そんな。私がお部屋に伺います。面会室を使ってもいいですか?」
「じゃあ、電気はこっちなんで、付けておきますね。」と、看護師さんがにっこり答えてくれる。え~と、江村さんだったかな。優しいな~。
大部屋だから、入口でまず挨拶。
「失礼します。」
カーテンが全部開いてる。4人部屋。
「だれ?誰に用事?若松さん?タバコ吸いに行ったんじゃない?いないよ。」と、少し低い声で若松さんと同室の患者さんが寝転んで雑誌を読みながら教えてくれる。髪が茶髪のロングで、さらに化粧も濃くて、元不良みたいでちょっと怖い。
この世で一番怖いものは、不良なんです。
「では、また来ます。ありがとうございました。」
頑張っても引きつり笑顔。
また来ようっと。
ナースステーションに寄って、看護師さんに若松さんがいなかったので再訪することを伝えると、
「あ、今エレベーターから出てきたのが若松さんですよ。」と、教えてくれる。
「若松さん、私、薬剤師の川村と言いますけど、今からちょっとお話しても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。タバコとライターを看護師さんに預けないといけないので、ちょっと待っていて下さい。」と言われる。
そうか、火器は危ないものね。自傷行為に使われても困るし。若松さんは線が細くて優しそうでキレイな人。確かに細いな。
「お待たせしました。」
「面会室でお話ししましょう。」と、面会室に誘導する。
面会室で患者さんと二人っきりになるのは初めて。なんか緊張する。
岡林先輩と一緒だった時は全然感じなかったけど、患者さんと二人きりだと圧迫感を感じる。2面がガラスになっていて、何かあっても外から丸見えという安心感はあるけど、それでもかなり緊張する。なんでだろう。
「私は薬剤師の川村と申します。よろしくお願いします。
早速ですが、若松さんは今飲んでいるお薬についてご存じですか?」
「うーん、あんまり知らないですけど、不安時とかイライラ時の薬は良く使うので、そういう薬なんだなって思っています。」
「そうですね。気持ちを安定させたり、落ちつけたりする薬がほとんどですね。お薬説明書を見ながらお話ししましょう。」
お薬説明書をテーブルに並べて説明を続行。
「抗うつ薬のジェイゾロフトは下がり過ぎた気持ちを上げたり、気持ちを楽にする効果があります。トピナとエクセグランは、気持ちを安定させたり、過剰な食欲を抑える働きがあります。眠剤は、寝付きを良くするルネスタと、ルネスタよりもう少し長めに効くロヒプノール、そして深く寝るためのセロクエルが出ています。それと、立ちくらみの薬がメトリジンとリズミックになります。」
「なんか薬が多いですね。」
「多いと思いますか?」
「前の方が多かったからこれでも少なくなったけど。」と言って、若松さんはにっこりほほ笑む。
どうしよう。なんか、ペースが掴めない。
「えーと、若松さんは薬を飲むのに抵抗はありますか?」
「抵抗は特に。でも、家に帰ったら飲み忘れるかもしれません。」
「そうですね。毎食後と寝る前。1日4回って忙しいかもしれないですね。あ…、副作用とかの確認をしたいのですけど、いいですか?」
岡林先輩が、初めての会う時はあんまり時間をかけると相手が疲れてしまうって言ってた気がするけど、どれくらいだったら大丈夫なんだっけ。
「はい、大丈夫です。」
「えっと、口が渇きますか?」
「特には。」
「ふらつきとか、日中の眠気はありますか?」
「立ち上がる時にちょっとふらつきたりすることはありますけど、眠気はあんまり感じないです。」
「3週間前に立ちくらみの薬が開始になっているんですけど、薬を飲み始めて立ちくらみはマシになりましたか?」
「そうですね、だいぶマシになりました。」
「後は…、若松さんは何か気になる事はありますか?」
「そうですね。今日、体重を測ったんですけど、何キロだったか分かります?」
「あ…、ちょっと分からないです。たぶん看護師さんが知っていると思うので、聞いてもらってもいいですか?」
「あ、そうなんだ。よくわからないけど、看護師さんは教えてくれなくて。でも、いいです。今日は診察なので先生に聞きます。」
「そうですか…。では、今日はこれで終わりにします。ありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。」