初めて単独の服薬指導に行け!とのご用命。親鳥に見送られて飛び立つ私。

お昼が終わって、薬剤部に戻る。

「お昼、お先にありがとうございました。」

「お帰りなさい。」と、市川主任が迎えてくれる。

岡林先輩がカルテから目を離して言う、

「川村さん、服薬指導に行って欲しい人がいるのですけど、独りで行ってもらってもいいですか?」

え?良くないけど?

「岡林さん、私が独りでですか?」

「ええ。大丈夫です。習うより慣れた方が早いです。若松さんという摂食障害の方です。お願いします。分からないことがあったら聞いて下さい。」

「はい…。」

どうしよう。いきなり。

とりあえず、カルテ、カルテ。

えーと、若松さんは30歳で、3歳の子供さんが1人いる。シングルマザーだ。シングルマザーって、大変そう。

旦那さんの記載はなし。1週間前に入院してきてる。

入院歴は…5年前からだと4回。前の病院からの紹介状があるから…、えーと、16歳の時にダイエットをしてから摂食障害。前の病院でも5回の入院歴があって、5年前に高知の実家に引っ越してくる時にこの病院に紹介されてきた、と。16歳当時の記録はないから、詳細は不明か…。

過食しては自己誘発嘔吐(自分で嘔吐すること)を繰り返す。下剤使用の記載はないから、下剤は使っていないのかな。

血液検査で異常値なのは…、白血球が2500?めっちゃ低い。

血圧も80?低いな。コレステロールがすごい低くて、中性脂肪は高いかな。ちょっとだけ確認してから行こう。

「岡林さん、ちょっとだけ確認してもいいですか?」

「もちろんです。」

「若松さんなんですが、自己誘発嘔吐がひどくて入院してきたみたいです。検査値はこんな感じですか?」

「そうですね…、白血球と血圧が低いのは特に問題ないと思います。普通なら白血球は3500以上ですが、摂食障害の患者さんは若くても2500くらいになることは珍しくないです。血圧は上が80。立ちくらみがあって、メトリジンとリズミックが処方されていますね。摂食障害の患者さんは、血管の状態が悪ければ高血圧になることもありえますが、概して血圧は低いです。

中性脂肪が高いのは、入院前の過食の量が多かったのかもしれません。中性脂肪は食事の影響をものすごく受けるので、次回の検査結果を確認しましょう。

アミラーゼが高いのは、嘔吐していることが原因かもしれないので、次回の検査を見てみましょう。嘔吐が治まったら、アミラーゼも低下していくと思います。」

アミラーゼは嘔吐したら高くなるんだ。そうか。

「下剤は使ってないでしょうか?」

「下剤乱用の記載はありませんし、外来の主治医の記事にも下剤についての記載はありません。でも、下剤を使っていないとも断言できませんので、患者さんに聞いてみて下さい。血液検査の電解質は正常値なので、下剤を使用していたとしてもすぐにどうしないといけない訳ではなさそうですね。」

え?直接聞くの?そうか、そうよね。聞いてもいいんだ。

「ありがとうございました。とりあえず行って来ます。」

「いきなりで申し訳ないですけど、よろしくお願いします。」と、岡林先輩が優しく送り出してくれる。

「あ、川村さん、とうとう独りで行くんですね。頑張って下さい。」

アリサちゃんも笑顔で見送ってくれる。