うつ病のサチヨさんのその後と、薬の大きさに関してのクレーム。
岡林先輩が戻ってきた。
「今の例え話も、ありそうな作り話です。」
え?例え…?
「生まれつき精神疾患の素因が強く、どのような環境にいたとしても精神疾患を発病する人もいますし、何かが原因となって精神疾患を発病する人もいます。発病のきっかけとなる出来事は本当に個人差があります。サチヨさんの様に、大切な誰かを失くすことは本当に悲しいことです。そもそも大切な誰かを失くした後の喪失感やうつ症状は当たり前の反応で、それが例え何ヶ月も続いたとしても、通常の反応であり、うつ病ではないと言う意見もあります。
サチヨさんのように一つの大きな出来事が引き金になることもあれば、小さいストレスが数週間~何年も溜まって、最後のほんの小さな一押しで精神的に大きく崩れてしまうこともあります。その最後の一押しはだれかの何でもない冗談だったり、ただの思い込みだったりもしますから難しいです。
体調が悪い時だけ甲殻類にアレルギーが出る人の様に、その人の体調などにもよります。女性だと、生理前であれば過剰反応してしまうこともあるかもしれません。同じことがあったとしても、状況が変われば結果も変わります。
サチヨさんが、今後またうつ症状に悩まされるかどうかは分かりません。
死ぬまで穏やかに過ごされるかもしれませんし、他の親戚が亡くなったのをきっかけにまたうつ状態になるのかもしれません。
大切なのは、崩れかけた時の対応です。崩れきってしまうと、治療にも時間がかかります。崩れかけた時にどうするかが最も大切なことなんです。
サチヨさんは、幸いご家族と同居なので心強いです。」
岡林先輩が満面の笑顔で言う。やっぱりサチヨさんか、そのモデルはいるんだ。最近分かってきたことだけど、岡林先輩って意外と顔に出るよね。
午後は猛烈に監査をする。病院の薬剤師は、どこも人手不足。給料も少ないし。
患者さんに向き合う時間を捻出するために、調剤業務は最短時間で終わらせたい。
ウチの病院は、薬は基本的に全て一包化。
一包化というのは、一回に飲む薬を小さな袋に入れること。薬が全部裸で袋に入ってる。
精神科の薬って、どうしてこんなに白いの?
もちろん、赤もピンクも青色だってある。でも、8割は白い。
目がチカチカする。私、ちょっと乱視が…。
ずっと思ってたんだけど、この錠剤大きくない?
この大きさで1日3回って。
これを飲め、と。噛まずに飲め、と。『噛んだら効果なくなるから』ってさ。
風邪でちょっとでも喉痛かったら絶対飲めないレベル。
それをただ『飲め』と。サービス精神なさすぎじゃない?
小さすぎるのも問題です。
おじいちゃんとか、「あれ?飲んだんやろか?」って、ご飯粒みたいにほっぺに付けてるの見た。私が気付かなかったら、絶対どっかに落としてた。