アスペルガー症候群の緒方さんの説明の前に、精神科の入院について倫理的なお話をちょっぴり静聴。

岡林先輩が説明してくれる。

「緒方さんは、頻繁にではないですけど、休息入院に来られます。」

「休息入院って何ですか?」

「体調がすごく悪くなって入院するわけではなくて、数日から3カ月までの間の期間で入院して休息を取ったり、生活リズムを修正したりすることです。」

「3カ月までっていうのは、何故ですか?」

「入院の形態です。3カ月までは急性期という区分になります。3カ月を超えると回復期という区分になります。急性期の方が、変な言い方ですが、利益は大きくなります。」

利益ないと民間の病院は潰れちゃいますからね。利益も大切。

私もお給料欲しい。できればもうちょっと色が付けてほしいです。

「ついでに精神科の入院の区分について簡単に説明しておきますね。さっきの急性期と回復期というは、単純に入院日数の違いです。

入院日数の違い以外にも入院の形態はいくつかあります。精神科では、任意入院、医療保護、措置入院というものです。

任意入院であれば、言葉どおり患者さんの任意で入院するというもので、患者さんが希望されればいつでも退院できます。

医療保護は保護者の方の同意があれば、患者さんの同意がなくても入院して頂くことができます。患者さんの希望だけでは退院できません。

措置入院は、精神科の医師の2名の同意があれば、保護者・患者さん両方の同意がなくても入院して頂くことができます。もちろん保護者・患者さんの希望だけでは退院できません。」

それって、裏を返せば…。

私の表情を読んだ様に岡林先輩は続ける。

「そうですね。合法的に監禁もできます。倫理という概念を取ってしまえば、病院というのは何でもできるのかもしれません。」

いつものほほ笑みが少し引きつる。

「でも、通常は、人道的に問題のあることを続けることは難しいです。

それでも、一瞬でも歪んだことが起こらないように、特に精神科は気を引き締めていかないといけません。そう思っている精神科は多いのですけど、いろいろと事件もあったせいか、精神科への風当たりはまだ強いです。」

「いろいろな事件って…?」

「職員が患者さんを殴り殺したりとか、作業療法と称して院長の家族経営の工場で働かせていたとか。想像しただけで胸が悪くなります。」

「酷いですね。」

「小説の中の話だと思いたいですよね。」

「そんなところで働きたくないです。」

岡林先輩がいつもの笑顔に戻った。

「そうですね。

でも、医療保護も措置入院も残念ながら必要なんです。

特に躁状態の患者さんは、自分の調子が悪いなんて思わない場合が多いです。自分が常に正しいと思うことが躁の症状の1つなので。でも、躁状態を放置しておけば患者さんも周りの方々もかなり負担がかかります。ですから、強制的にでも入院してもらうことが必要な場合があります。

自分を傷つけしまう人も同様です。

必要な法律ですが、両刃の刃でもあります。

医療保護でも措置入院の患者さんでも、落ち着いたらできるだけ早く任意入院にすることがほとんどです。任意入院にできない患者さんもいるとは思いますが、通常の病院では少ないと思います。

それに、特殊な事情がないのに、退院したいとしきりに訴える患者さんを入院させておくことは難しいです。

ちょっと脱線してしまいました。

アスペルガー症候群の話でしたね。