アスペルガー症候群の緒方さんの苦しみと、彼氏がいてもいなくても悩む気持ち。

アスペルガー症候群の話に戻りますね。さっきも言いましたが、アスペルガー症候群の方は人とのコミュニケーションが苦手です。

とはいえ、お仕事をされている方も多いです。ただ、職場で対人関係の問題を抱えている人も多いと思います。

緒方さんはずっと同じ職場なのですが、職場の人との関わりが彼にとって大変なものなのです。職場の上司は休息入院で仕事を休ませて下さったりと、病気にもとても理解がある優しい方だと聞いています。それでも、こだわりが強かったり、新しいことが苦手だったりするアスペルガー症候群の方には通常の業務がとてもしんどいものであることが多いです。」

「人とのコミュニケーション…?」

アスペルガー症候群の方は個人差は大きいと思いますが、他人の表情が読みにくいと言われています。笑っているのか怒っているのかが分からないと言います。例えば、『バカだな』と言われたとします。それがどういうシチュエーションで言われたかで意味は全く違いますよね。先輩に真剣な表情で舌打ちされながら吐き捨てるように言われる『バカだな』と、恋人同士でじゃれあいながら言いあう『バカだな』は、全く違います。でも、その違いがアスペルガー症候群の人には分かりにくいと言われています。ですから、全てを文面どおりに受け取ってしまい混乱します。

患者さんによりますが、私はできるだけ紙に書いて、筆談とまではいかないにしても、文字や絵にして伝えたいことを伝えるようにしています。アスペルガー症候群の人だけではなくて、発達障害の患者さんにも同じ対応をします。」

発達障害発達障害って何ですか?」

発達障害については…、今日は時間がないので来週にしましょう。」

「岡林さん、一つだけ聞いてもいいですか?」

「はい、何ですか?」

「緒方さんの表情はあれで普通なんですか?」

「あの表情は緒方さんなりの努力の結晶なんだと思います。他人と上手く接するためにあの表情を作っているのだと思います。これは想像ですが、にこやかにしていなさいと子供の時に言われたのかもしれないですね。」

「でも、なんというか、すごく違和感がある表情なんですけど。」

「そうですね。でも、彼も頑張っているんです。」

そうなのか…。頑張ってあの表情を作っているのなら、仕方ないけど…。普通に出会った人がああいう表情をしてたら、ちょっと怖い。

 

「もう置いてね。」と、どこからともなく市川主任の声がする。

やっぱり正確だわ。超能力って言えるかも、この正確さ。

 

あ~。

今日もなんだか疲れた。

患者さんと話すのけっこう疲れるなあ。直接患者さんと話したのは岡林先輩だけど。

花金だけど、今日は帰ろう。帰って、お風呂入って、DVD観て寝よ。

こういう時に彼氏とかいればいいんだけど。

彼氏って、いてもいなくても面倒。

彼氏いないと女性として魅力ない感じで恥ずかしい。でも彼氏がいたらいたで気を遣わないといけない。まめにメールしなきゃいけないし、独りでDVD観あさったりできなくなるし。

そういえば、好きになる気持ちってどんなんだったっけ?

関西にいる親友の晶子は、「恋は落ちるものでしょ。好きになろうとして好きになれるわけじゃないし。ボーとしとけば。」と言う。縁あれば千里。待つしかないか。