これも薬剤師の仕事? 国際化の波にのってみせます!
市川主任がどこからともなく現れた。
「皐月ちゃん、ちょっと来てくれる?」
「はい。川村さん、ちょっと行ってきますので、また薬の監査をお願いしてもいいですか?」
と、岡林先輩が市川主任に付いて行った。
2人の会話が聞こえる。
「皐月ちゃん。なんか外来の患者さんが、来月にシンガポールに行くらしくって。シンガポールに持ちこみできない精神科の薬って何か分かる?」
「いつまでにお調べしたらいいですか?」
「できれば今日中。」
「今が、14:30…。ちょっとお時間下さい。目処が付いたらまたご報告します。主治医はどなたですか?」
「柿花先生。」
「このお話、私が受けてよろしいですか?市川主任を通した方がよろしいですか?」
「皐月ちゃんに任せるわ。」
え?丸投げ?
市川主任、爽やかなほど潔いわ。
岡林先輩が、どうやらシンガポールの大使館に電話をしている。
ん?どうやら、HPを見て自分で調べろと言われたようだ。
英語で記載されている薬剤名を訳している。
「岡林さん、何かお手伝いできることありますか?」と、聞いてみる。
「助かります。後で確認して欲しいことがありますので、よろしくお願いします。」
今は、とりあえず監査に戻ろう。
助手のアリサちゃんがおもむろに、
「私、旅行会社の知り合いがいるので、ちょっと聞いてみます。」と言って、携帯で電話をかけ始めた。
アリサちゃん、なんか頼もしい。
アリサちゃんが、さっと電話を切って戻ってきた。
「岡林さん、旅行会社の添乗員の知り合いに聞いたんですけんど、今まで眠剤とかを調べられたことなんてないそうです。『注意されたり、取り上げられることなんて、絶対ないですよ~』って、言ってました。もちろん絶対なんてないと思うんですけんど、おそらく大丈夫みたいです。」
アリサちゃんはたまにちょっとだけ訛る、『ですけんど』って。
ぷにぷにしてて、24歳で、可愛い以外の表現ができない。
「アリサちゃん、ありがとうございました。助かりました。大使館のデータと、今の情報を主治医に伝えます。」
「川村さん、これが合っているか確認お願いします。」
大使館のHPからプリントアウトした紙の英語の薬剤名の下に日本語の薬剤名が書かれている。
初めての精神科っぽい仕事。猛烈に確認します。
うん。さすが岡林先輩。私がみるところ、全く問題なし。
「確認しました。問題ないです。」
「ありがとうございました。柿花先生のところに行ってきます。」
岡林先輩は5分くらいで戻ってきた。
「市川主任、無事に終わりました。川村さん、アリサちゃん、ありがとうございました。」
私の好奇心満タンの視線に気付いたのか、説明してくれる。
「柿花先生の患者さんが、シンガポールにお仕事で行かれるみたいなんです。
アリサちゃんのお知り合いからの情報もお伝えしたのですが、シンガポールの方とのお仕事だそうなので、規則をしっかり守りたいみたいです。シンガポールに届け出なくても大丈夫な薬を持って行くことになりました。」
「海外に行く時に届け出ないといけない薬って結構あるんですか?」
「国によって違うとは思いますが、麻薬くらいじゃないでしょうか。違法麻薬以外の薬を海外に持ち込んで逮捕、というのは聞いたことがないので大丈夫ではないかと思うのですが、私も詳しくはないので…。
アメリカでは、フルニトラゼパム、日本ではロヒプノールやサイレースといった名前ですが、これはデートドラッグと言われてレイプ等に使われるらしいので、かなり規制が厳しいようです。
でも、日本ではロヒプノールやサイレースは一般的な眠剤ですから、知らずに持ち込んだ方も沢山いらっしゃるんじゃないでしょうか。海外に行ったら、とりあえず薬を他人に渡したりはしない方が良さそうですね。」
ふ~。
今日も疲れた。まさかシンガポールに持っていく薬を確認するとはね。
なぜに毎日こんなに疲れるのだろうか。
父から、定年後に始めた畑で茄子が大量に採れたとの情報あり。
今日はマーボー茄子にしよう。
スーパーで甜麺醤(テンメンジャン)を買って帰ろう。コチュ醤はまだある。
母に電話。
「夕食はマーボー茄子でいいですか?」
「お願いしま~す。」
料理がキライな母のために親孝行。
中国4千年の歴史だけあるわ、中華って美味しい。