摂食障害の患者さんへの対応と、近道がないことへの憂鬱。

「同じ摂食障害でも、青木さんはかなり痩せていますね。青木さんの方が藤原さんよりも摂食障害の歴が長いです。

現在は、青木さんは下剤乱用、藤原さんは過食嘔吐が主な症状です。

過食嘔吐の患者さんは、過食してから嘔吐までにある程度栄養を吸収できるからか、異常に痩せている印象は少ないです。

長い間摂取カロリーが極端に少ない人に、カロリーの高いものを提供すると、肝機能が悪くなったり電解質に異常が出たりすることがありますし、そもそも大量の食事を目にするだけで、摂食障害の患者さんにはストレスになりますから、入院してきたばかりの摂食障害の患者さんには、少ない量の病院食が提供されることが多いです。

過食嘔吐を繰り返して入院に至った患者さんでは、むしろ病院食を3食食べて間食しない方が体重が落ちることもあります。根気のいる疾患ですが、少しでも患者さんの訳に立てるように頑張りましょう。」

「患者さんに言ったらいけない言葉とかはありますか?」

摂食障害の患者さんにですか?」

「はい。でも、精神科の全ての患者さんに対しても言ってはいけないことがあれば知りたいです。」

ちょっと困ったような顔をして岡林先輩が答える。

「今の質問は、一般科の薬剤師にもよく聞かれます。言ったらいけないことなんてありません。普通に接して下さい。

このキーワードは絶対にタブーなんてことはないです。むしろ、言っていい事と言ったらいけない事が明確に分かれているのであれば、そんなに楽なことはないです。

ただ、精神的な疾患は傷が見えません。どれだけ大きな傷なのか、誰にも分からないんです。もしかしたら本人にも分からないかもしれない。でも、傷はあるんです。それだけは忘れないで下さい。」

 

きっと、同じ質問を何度も聞かれて、同じことを考えて、そして、やっぱり答えがないという結論に達していたのかな。

 

どの世界もそうだろうけど、底がないな…。