精神科、初日!

内科などの一般科と同じように精神科病棟にも以前から薬剤師が入っていたけど、もっと薬剤師が病棟に入り込むために薬剤師を増員するそうだ。

なるほど。では、精神科で頑張ります!

 

さっそく次の週から精神科。名残を惜しんでもらうヒマもなく精神科へ。

まず上司の市川主任に挨拶。穏やかそうな人。今年還暦らしい。

市川主任に連れられて、精神科の病院内を案内してもらう。精神科部長の竹下先生、副部長の高橋先生、科長の柿花先生、若手でうちの精神科唯一の女医の篠山先生、外来と各病棟の看護師長や主任などに挨拶するからと、連れて行ってくれる。

「あ、事務長のところにも寄らなくちゃ。」と、市川主任はうっかりしちゃったという顔をする。

ノックをして、失礼しますと市川主任から事務長室に入る。背の高いスーツ姿の50代くらいの男性から、挨拶もなしにいきなりチェーンが付いた鍵と書類を一枚渡される。

「鍵。絶対に失くさない様に。ここに名前書いて。鍵の番号も書いて。」

声も低いし、能面のように表情が変わらないし、ただひたすら威圧的で怖い。

鍵?鍵ってどこの?いつ使うのよ?

 

精神科のスタッフはみんな優しいからって言われていたけど、本当だった。(事務長以外)

そういう『いい噂』は話半分で聞くようにしてるから、実際そうだと驚く。

木下病院に入って間もない私が看護師と関わるのは主に当直中。精神科は夜中に急遽入院になることが少ないので、当直中に精神科の看護師とは関わることは少ない。そのせいか、こんなに優しい看護師さんばかりなんて!と感動すらおぼえる。

当直中に関わるのは、一般科病棟やERの看護師。夜中で人も少ないし、疲労で余裕がないから、お互いに攻撃的になってしまう。そんな時にこそトラブルは起こり、揉め、引っ込みがつかなくなり逆ギレする。(もちろん、一般科やERの看護師さんは私のことを『あの態度だけ大きくて仕事のできない薬剤師は誰?』って絶対思ってると思う。本当にごめんなさい。)

そんな状況で心がすさんでいたので、精神科のスタッフの笑顔は心に沁みる。

精神科は、『今、死ぬかもしれない』という状況が少ないので、緊張感が違うと言えばそれまでだけど。

 

精神科病棟は別館になっていて、精神科のためにだけにある。8年前に建て替えをしたらしく、ちょっとしたビジネスホテルくらいにキレイで明るい。

市川主任によると、「建て替える前は酷かったのよ~。ボロボロの建物だったの。前は畳で、布団をめくったらダニが跳んでたんですって~。そんなところに絶対入院したくないわよね~。」と、精神科病棟を案内しながら説明してくれる。

精神科病棟では通るドアに全て鍵がかかっている。鍵を開けて、入って、閉めて、を永遠と繰り返す。

「忘れないように閉めてね。」と、鍵をかけながら市川主任が注意してくれる。

「うちの精神科は3つの病棟があって、3階は回復期の閉鎖病棟4階は急性期の開放…。」

どうしよう、全然分からない。

回復期?

市川主任に聞いてみる。ざっくりと説明すると、急性期が3カ月以内の入院、回復期が3カ月より長い入院だそう。

保険の話、お金の話らしい。公立の病院では、どれだけ赤字が続いても倒産することはないけれど、うちの病院は民間なので赤字が続けば倒産してしまうらしい。

精神科の先輩薬剤師、岡林さん曰く

「精神科はどこも経営は厳しいみたいです…。」とのこと。

こんなこと言っちゃなんだけど、私の給料は大丈夫かしら…。

 

倒産しないために生活保護の人ばかりお客にしている病院もあるそうだ。

国民保険等の場合は、医療にかかったお金の3割を患者が窓口で払い、7割が国から支払われる。

生活保護の場合は、全額国から医療機関に支払われる。つまり、生活保護の人は医療費の自己負担がゼロ。不謹慎だけど、治療費ゼロなんてホント羨ましい。