抑制とは!

とりあえず2週間は薬の監査、監査の日々。

ヒーヒー言いながら薬を監査して、1日が終わる。眼精疲労が半端ない。

「川村さん、必須の勉強会があるから、出れる日を教えてね。」と、市川主任がひょっこり話しかけてきた。

「必須ってなんですか?」

「年に2回ずつ、決められた勉強会に出ないといけないの。

精神科の必須勉強会は、倫理、医療安全、感染対策ね。それ以外にも勉強会は沢山あるから、興味あるものに参加してね。」と、市川主任は必要なことを話すと、自分のデスクにさっさと戻って行った。主任のデスクは衝立があって覗き込まないと見えない。何してるんだろ?

 

医療安全、感染対策の勉強会には行ったことがある。でも、倫理の勉強会は初めて。内科とか外科の一般科ではないよね?倫理の勉強会が今日の終業後にあるらしいので、早速行ってみた。行ける時に行かないと、すぐに忘れちゃうしね。

あの男前の看護師長さんが、パワーポイントを操作しながら話している。ちょっと遅刻してしまいました。内容は、「患者さんの安全のために抑制をしたり、部屋に鍵をかけたりしないといけない。しかし、それは患者さんの自由を奪うことになる。自由を奪うことは最小限にしなければいけない。でも安全でなければ意味がない。自由を尊重しつつ安全を確保する。非常に難しいところです」という内容。

抑制…?部屋に鍵?

明日、岡林先輩に聞いてみよう。

 

仕事の後の勉強会は、疲れるな~。今日は、マーボー豆腐にしよう。

疲れていると辛いものが食べたくなる。マーボー豆腐を食べてお風呂に入って…。

気が付いたら朝、目覚まし時計が鳴ってる。え?遅刻?髪を振り乱して電車に乗って、なんとか間に合った。

 

朝一番に岡林先輩に聞いた。

「抑制ってなんですか?なんで抑制なんてするんですか?」

岡林先輩は一日中変化がない。朝、顔が浮腫んでいたり、夕方に疲れて髪がボサボサだったりしない。二次元の人みたい。ちょっと自分が恥ずかしい。

「休息が全く取れなくなる患者さんがいるんです。休息がとれないと体にかかる負担も大きくなるので、抑制をして少しでも休息がとれるようにします。自分の体をひどく傷つけてしまう患者さんの場合も抑制は必要です。

でも、抑制はいろいろ問題があります。患者さんとの信頼関係の問題もあります。倫理的な問題ばかりではなく、褥瘡(床ずれ)をおこしてしまう場合もあるのでできる限りしたくないんです。」

奥深き、抑制。

「休息が取れなくなるのは、躁状態だからですか?」

「そうです。でも、躁状態だけではなく、うつ症状の時もイライラして休息が取れなくなる場合があります。」

「身体を傷つけてしまうのはどうしてですか?」

「それぞれに事情があるみたいですね。幻聴に命令されて自分を傷つけることもあるでしょうし、心の痛みを紛らわすのに自分の身体を傷つけることもあるのだと思います。」

「心の痛みを紛らわすのに、身体を傷つける?」

「例えば、注射の痛みを紛らわすために足をつねる人がいますが、それと同じだと思います。」

「ちなみに、抑制が必要なくらい自分の身体を傷つけるっていうのは…?」

「私がこの病院で聞いたことがあるのは、壁に頭を撃ちつける、わざと頭から転ぶ、爪を剥ぐ、頻回のリストカットでしょうか。でもそういう自傷行為は、服薬や人との関わりで落ち着くことも多いみたいです。」

痛そう…。それ以上に心の痛いが強いということ?心の痛みって実際なんなんだろう。

 

心臓が痛いのは胸痛だからまた別か…。